悪い冗談では済まない由々しき事態だ。
国連総会は10月13日の選挙で、人権理事会の理事国に中国やロシア、キューバなどを選出した。
香港の国家安全維持法(国安法)の施行やウイグル族など少数民族への組織的迫害、反体制派の活動家らへの弾圧など中国やロシアのような強権国家が、世界の人権状況改善を使命とする人権理事会入りするという。聞いて呆(あき)れるではないか。
国連の活動を監視する非政府組織「国連ウオッチ」は、これらの国の選出を「放火犯を消防隊に入れるようなもの」と批判した。また、来年からの3年間を任期とする今回の改選で、非民主国家が人権理(47カ国)に占める割合は現在の5割から6割に増える。
人権理では今年9月に一般討論が行われ、ベネズエラなど多数の国が香港の国安法を支持するなど、自由と民主主義を掲げる欧米諸国とは逆の意見表明が相次いだ。人権を踏みにじる国をもてはやす現状は看過できない。
人権理は2006年、53カ国で構成する前身の人権委員会が改組される形で発足した。人権委では自国が名指しで非難される決議案が出されぬよう、問題国家が事前に立候補を調整し、相互に支援し合う悪弊が指摘されていた。
このため、人権理は当選には193カ国の国連全加盟国の過半数の賛成を必要とするなど選出基準を厳しくした。それでも問題国家が理事国入りしてしまうのは、改選国と立候補国の数がほぼ同じという無風状態にあるからだ。
一方、4カ国を選ぶアジア太平洋枠では5カ国が立候補し、サウジアラビアが落選した。政権の関与が疑われるジャーナリスト殺害事件が影響したとされる。
改選数を上回る国が立候補し、選挙に健全な競争が持ち込まれれば、問題国家が排除される可能性は高くなる。こうした動きを強めていかねばならない。
中国は4年前に行われた前回から得票数を2割減らしたが、やすやすと選出された。人権理には人権侵害国を資格停止にできる規定があるが、国連総会で3分の2の賛成が必要だ。ハードルを下げるよう見直さねばならない。
人権理に問題国家が増えれば自国に都合の良い決議しか通らなくなる。日本は2年前に脱退した米国の復帰を呼びかけ、選出基準の厳格化を主導すべきだ。
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2020年10月19日付産経新聞【主張】を転載しています